◇はじめに

平成18年6月1日に改正されました、「動物の愛護及び管理い関する法律」(以下「動愛法」)により、動物取扱業者が個体を販売する場合、その販売しようとしている動物について、その生理、生態、習性等に合致した適正な飼養又は保管が行なわれるように、契約(販売)に当たって、あらかじめ、当該動物の特性及び状態に関する情報を文書・電子的記録にて、顧客に対し説明する義務を課せられました。

Bp・Supplyとしては、Group紹介の「目標」項目にて「Groupの活動・HP等による飼育・繁殖情報の配信を通して、Ball Pyhtonの「真の魅力」を提示する事により、種としての認識を高め、飼育方法等の改善を促したいと思います」と述べている通り、その方向性に異論がある筈も無く、遵守していく方針でおります。

そこで、今回、その「説明」部分に該当する項目として、この Care Sheet を大いに活用しようと考えました、元々、Ball Pythonの本質・魅力を広く知らしめ、その飼育法を改善・少しずつでも良い方向にして行く事が出来れば の思いにて設置しました項目です。その役割にも充分足りるものと捉えております。

◇約束 と お願い

Bp・SupplyにてBall Python個体導入をお考えの新キーパーさんは、必ず此方、Care Sheet にて、Ball Pythonに関する生態・習性・生理・正しい飼い方・病気などの情報を確認の上、自身が終生飼育できると判断した場合のみ飼育をスタートさせて下さい。特にWeb Shop項目をご利用頂く、通販の場合などは、上記の理由から Care Sheet の確認、把握が販売を行なう上での必要事項となりますので、必ず個体購入希望の連絡、購入手続き前には、お読み頂き、ご理解頂く事を お約束 願います。
また、この事は「動物を販売する施設の基準」として定められました「販売者に対する説明と確認」に置き換えさせて頂く場合がありますので、その旨 ご了承の程、宜しくお願い致します。

◇目次
◇ボールパイソン( Ball Python / Python regius )とは
◆ボールパイソン( Ball Python / Python regius )
◆生息域と生態
◇ボールパイソン( Ball Python / Python regius )の飼育
◆独特のリズム「休眠」
◆「休眠期」の示す意味
◆給餌
◆成長過程別 給餌ポイント
◆育成飼育の必要性 
◆Ball Pythonの嗜好性
◆飼育環境
◆ダニ対策
◇ボールパイソン( Ball Python / Python regius )の繁殖
◆ポイント
◆性成熟・適正年齢と個体育成の重要性
◆「休眠期」=「繁殖期」
◆メカニズム その1
◆メカニズム その2
◆エコー(超音波診断)
◆雌のシグナル
◆ペアリングの方法
◆交尾
◆コンバット
◆繁殖期の給餌
◆繁殖用ケージ・床材・水入れ
◆妊娠の確認と産卵の予測
◆産卵の前兆
◆産卵
◆産卵後の雌個体への対応
◆雌の体力回復
◆孵卵器
◆産床・孵化基
◆卵の発育と孵化の前兆
◆胚子の死亡
◆孵化
◆記録の重要性
◆孵化後の幼蛇
◆脱皮の前兆
◆幼蛇への給餌
◆Assist feeding:アシストフィーディング
◆Assist feedingの方法
◇スパイダーの示す神経症状について
◆スパイダーの神経症状について

◆日本の現状

◇ボールパイソン( Ball Python / Python regius )とは
◇和名:ボールニシキヘビ/英名:Ball Python(Python regius)
色彩や模様の美しさから別名:Royal Pythonとも呼ばれる大変美しいニシキへビ。ニシキヘビ科・ニシキヘビ属pythonに属す蛇ではありますが、成体でも全長がおよそ1,5m〜1,8mと小型の種と言えます。また、長命な蛇としても有名で、フィラデルフィア動物園では49年の飼育記録が報告されています。
◇生息域と生態

西アフリカから中央アフリカにかけて広く生息し、分布域としては 南限を熱帯雨林地域、北限をサハラ砂漠、東限ではナイル渓谷まで達するとの報告がされています。日本に於けるペットトレードの世界ではトーゴ、ガーナなどが代表的輸出国と言えます。

乾燥地域にて植物が群生している様な場所(サバンナや開けた森林地帯、耕作地など)を主な活動域とし、げっ歯類が使用していた古い巣穴や朽ちた蟻塚などの洞を巣としている事が報告されています。薄明かりとなる夕刻や夜明け前に主な活動をする夜行性であり、現地では小型のげっ歯類(ジャービルなどに代表される砂ネズミの類)を主な餌としています。

◇ボールパイソン( Ball Python / Python regius )の飼育
◇ 独特のリズム「休眠」

野生動物を飼育する上で、その種が持つ特性や本質を知る事はとても重要な事と言えます。そして、その事は例え飼育下にて累代繁殖がなされている種であったとしても同じ事で、「種の記憶」としての情報は飼育を進める上で、とても重要な役割を果たす場合が多くあるのです。

Ball Pythonの飼育・繁殖に於いて、とても重要な特性として挙げられるのが独特なリズムとして知られる「休眠」となります。Ball Pythonは生後2年目の冬季を迎えますと雌雄共に多くの個体が活動はするものの採食をしないという「休眠期」を迎えます。Ball Pythonを飼育する上でこの季節変化に伴う特有のサイクル「休眠期」の存在を知る事はとても重要な意味を持つのです。

◇「休眠期」の示す意味

亜成体以降の多くの個体は冬季(11月〜4月が目安)になりますと、緩やかな活動は示すもの採食行動はとらないと言う、「休眠」状態に陥ります。実はこれはその個体が性成熟を迎え繁殖期に入った事を意味し、Ball Pythonの「繁殖期」=「雄雌共に食欲減退が訪れる」という図式からなる自然のリズムなのです。

日本では長い間この「自然なリズム」が理解されずBall Python=拒食の代名詞の様な扱いを受けてきた訳ですが、この自然なリズム「休眠」を理解頂ければ拒食に対する誤解も解消される事でしょう。

◇給餌

Ball Python飼育で一番様々な問題を耳にするのは「給餌」に関する事柄です。そこで先ずは給餌に関するポイントから抑えて行きましょう。

「拒食の汚名返上」

私はBall Python=「拒食」と言う図式が好きではありません。確かにBall Pythonの話題で1番良く出る内容がこの「拒食」と云うことは確かです、しかしBall Pythonが拒食すると解釈されていた多くの原因は、その殆んどが「休眠期」と言うBall Python特有のサイクルが認識されていなかった為の結果だと思うのです。管理飼育されたCH・CB個体にてこのサイクルを認識頂き、飼育頂ければBall Pythonほど「飼育し易いPython種」は他にはいないと私は判断しています

「神話を崩せ」

日本に於ける「蛇」飼育法は長い間コーンスネーク等を代表とする「ナミヘビ」の飼育方法にて浸透して来たと言えます。その事を反映してか「蛇」に対する給餌の基本を「1週間にマウス1匹」とし、これが「神話」の如く浸透してしまっている様にさえ感じます。そしてこの事が不幸にもボア・パイソン種飼育には若干の弊害を生んでしまったと言えるでしょう。実際にBall Pythonの場合、この「1週間にマウス1匹」給餌では「繁殖」の根本的部分で上手く行かない状況に陥ってしまいます。繁殖を視野に入れた育成飼育を行うのであれば、先に述べた「休眠期」と言うBall Pythonの自然なサイクルを良く理解し、幼蛇の年間を通した「成長期」及び、成体での「活動期」に、適正 且つ 十分な給餌を行う必要があるのです。

◇成長過程別 給餌ポイント

「幼蛇:孵化〜1年半」

孵化から最初の1年は、環境温度をおよそ 昼間28°〜30℃:夜間26°〜28℃の高めに維持してあげる事により、年間を通しての成長期を活かすことが出来ます。与える餌は個体の成長に合わせ、ファジーマウス〜ホッパーマウス〜ピンクラット〜ファジーラット〜ホッパーラットへと順次切り替えて行く事になるでしょう。

Ball Pythonは頭部が大きい為 幼蛇の時期から、思ったよりも大きいサイズを呑む事が出来ます。胴回り程の大きさの餌であれば、巻きつくほどのサイズでも問題はありません。大きな餌にも動じない個体には出来るだけ大きな餌に慣らして行くと後が楽になります。逆に臆病な個体には小さめの餌を回数でカバーしながら与えて行きます。小さな餌を与え、満腹感を与えない事で結果給餌回数が増え、より多くの餌を与えられると言う、給餌法を実践しているブリーダーもいますので、自身のスタイルと個体の性格に合った餌のサイズ・給餌法を選択して下さい。

飼育データとして、ラットを主食とする個体、マウスを主食とする個体を比べて統計を取りましたが、各給餌間隔やサイクルが若干違う程度で、重要となる育成や繁殖に弊害を感じる事はありませんでした。

また、1年半の成長過程で餌食いの良し悪しにより、親子ほどのサイズの違いが出る事もありますが、人間も様々なタイプがある様に、個性と受け止め、個体ごとのリズムで育てる事が重要です。

「亜成体〜成体」

2年目の冬季には(11月〜4月)いわゆるBall Python特有のリズム「休眠期」が訪れ、食欲の減退傾向が見られるようになります。これは先に説明致しました、「拒食」とは意味合いが違いますので、無理に食べさせる必要はありません。状態を崩しての拒食は別問題ですが、6ヶ月以上食べなくとも心配はいりません。

そこで、上記のことで重要になってくるのは活動期間に於ける給餌となります。
Ball Pythonは約半年で年間のエネルギーを摂取する訳ですから採食する時期には個体が欲するだけの量を与える必要がある訳なのです。Ball Pythonは1回の給餌に何頭も続けて食べることは稀な為、少し大きいかなと思う位の餌を効率良く与える(又は小さい餌を回数に分けて与える)事が、成長へのカギとなります。

餌のサイズや給餌間隔の見極めには個体の大きさ(頭部や胴回りサイズ)・個体ごとの性格・餌の消化状況(糞尿等の確認・腹部の膨らみ具合)など様々な要因を観察等にて読み取り判断して下さい。また、給餌後の急激な温度低下は食滞を引き起こす等の事故の元となります、温度管理に対しても注意が必要です。

◇育成飼育の必要性

「育成飼育とPower feedingの違い」

筆者はBall Pythonの成長には的確な給餌を行う時期を設ける「育成飼育」が必要との持論があります。それは世に言う過剰なPower feedingとは意味合いが違います。育成飼育に於ける給餌とは、個体が多くの採食を自然と求める行為に従う給餌サイクルと判断し、実践しています。

「幼蛇に対する給餌」

Ball pythonは成長期の育成が性成熟を迎えた時のサイズに大きく影響する為、幼蛇時に見せる貪欲な捕食行動という行為はBall python自身がより早く成長しようとする本能が成す行為と判断しています。この時期には消化負担を与えるような大きすぎる餌でなければ、個体の体つき、消化状況(腹部の膨らみや糞尿の状況等)に注意しながら十分な餌を与えて下さい。

「休眠明け」

Ball pythonは休眠期間が明け、採食状態に入りますと、休眠期間(約半年)での消耗した分を取り戻そうと、普段と違った旺盛な食欲を見せます。この時期は体が欲求しての採食ですので、同じく消化状況に注意しながらではありますが、個体が求める量を与えて問題はありません。

この様に必要時の必要量は無理な給餌(Power feeding)とは違うと言う観点から筆者はこの給餌スタイルを続けています。成長した個体の餌食いは割りとのんびりしたもので、貪欲な食欲を示すのは年に数回の事です。半強制的に過剰な餌を与える事は絶対に良い結果を生みません。また,Ball Pythonは自然な給餌による過剰な採食(捕食)はしないと判断しています。

◇Ball Pythonの嗜好性

Ball Pythonの中にはかなりの偏食を示す個体がいます。特に野生下にて成長した個体を購入した場合等では、蛇の代表となる餌であるマウスやラット、ウズラや鶏の雛など全てに反応を示さない頑固な個体に出会う事は良くある事です。実際に筆者も約2年間その類の餌を一切拒食し続け、最終的にある種の餌で採食を導き解決した経験があります。

経験上その様な個体が特に良く反応した餌はジュービル(砂ねずみ)やハムスターの類でありました。WC個体では恐らく生息域での採食経験がある種の匂いに安全性を感じての傾向と思われますが、WC個体の立ち上げや採食に導く為にはとても有効な餌と判断しています。但し、嗜好性が強い分、マウスやラットに移行させる事が困難になる場合がありますので、ある程度の覚悟が必要となるかも知れません。

◇飼育環境

「ケージ」

ケージ選択にて、もっとも重視する点は床面積の広さになります。広い空間を立体的にレイアウトしての飼育も大変美しく楽しいものですが、繁殖を考えた成体や管理飼育ではメンテナンスの利点を優先に考えた簡素なタイプをお勧めします。幼蛇では個体のサイズごとに合わせたフラットタイプのプラケースが適しており、成体に於いても若干の工夫は必要があるものの、概ねサイズに合わせた市販の爬虫類飼育ケージ等の対応で生涯飼育も可能です。

「床材」

現在 市場にて販売されていますペット関連の床材は多種多様ありますが、その素材ごとの特性はどれも一長一短です。

USでの使用例も多いウッドシェイブタイプ(アスペンチップ)は見た目も綺麗であり、汚れた部分のみを取り除くという交換性にも優れていますが、反面 木の粉塵がケージ内を舞う事での呼吸器系疾病の懸念や採食時の誤飲、口内に刺さる事でのマウスロットの心配などが挙げられます。新聞紙の様な紙類は安価な事と糞尿の吸収性や交換性に優れていますが、レイアウト重視の方にとっては個体が下に潜り込んでしまうなど、見た目に問題が有るとの意見もよく耳にします。

現在 筆者は、幼蛇―亜成体では紙類(キッチンペーパー・新聞紙など)を使用し、糞尿量の増える成体からはペットシーツと紙類の併用にて管理をしています。
ペットシーツの利点は、尿が速やかに吸収される事から飼育環境内の衛生が
保たれる点やケージ内に於ける過度の湿度上昇を防げる点などが挙げられます。
ペットシーツ使用の際にはペットシーツの下に新聞紙を敷くなどの2重の措置をしますと、尿が下部に漏れた際なども個体が尿まみれになる状態を防ぐ事ができますのでお勧めです。

「シェルター」

ケージのタイプ、個体の性格にもよりますが、個体を落ち着かせる為にはシェルターは大変有効です。素材、市販の爬虫類専用シャルターや園芸用品(鉢など)を加工するなどキーパーの考え方、工夫で様々と思いますが、重視する部分はその大きさです、個体がとぐろを巻いた時、程よく体が壁面に触れる程度の大きさが最適です。個体の成長に併せ、ケージ同様、適切なサイズを選択してあげて下さい。

「水入れ」

一般の飼育書にはよく「個体の全身が浸かれるサイズ」と書かれていますが、飼育環境・ケージの大きさ等により臨機応変なサイズ選択をして下さい。飼育環境の温度と湿度が適正であれば、水入れは「飲料専用のサイズ」でも問題はありません。過度の乾燥が起こり易い環境や、脱皮の際に表皮の状態を見て脱皮不全の心配がある場合などに対しては、臨機応変に「大きなサイズ」に変える事などでその問題も解決する筈です。

「保温」

Ball Pythonの保温にはオイルヒーターなどによる環境温度を通しての管理が適しています。多くの飼育書にて推奨されている底面ヒーターのみに頼った保温対策はBall Pythonには適しません。底面ヒーターのみの保温では、環境内の空気を温める事が出来ない為、呼吸から冷気を吸い込む事での肺炎を引き起こす場合があり、同様にヒーター上部のみが暖かい事からその場を離れない為に起きる低温火傷も心配です。

環境温度での管理が難しい場合は、ケージ内の空気を暖める工夫が必要となります。ケージ内の温度管理には側面や上部にテープヒーター等を配置する事で空気を温め、底面ヒーターにてホットスポットの役割をさせると良いでしょう。予備的役割の底面ヒーターはスポット保温としての役割の他、環境内に温度勾を作る事にも繋がり、個体がケージ内にて最適な温度域を選択出来る事にもなるのです。

「温度設定」

ケージ内にて温度勾配を設ける事を推奨しましたが、設定温度の目安として下記数値を参考にして下さい。
年間を通しての高温域の温度を、昼間30〜32℃(上限35℃)夜間27〜29℃に設定。季節による温度変化をつけるため、低温域の温度を夏季で昼間29℃・夜間27℃、冬季では昼間27℃・夜間25℃になることを目安に設定して下さい。

基軸となる温度の管理にはサーモスタットを使用しての管理をお勧め致しますが、数値はあくまでも目安ですのであまり神経質に捉える必要はありません。低温域の変化は主に季節による室温等の環境温度変化にて自然に対応が出きる場合もありますし、保温方法などにもよりますが、ケージの設置位置を変えるなどの単純な工夫でも十分対応が出来ます。キーパー毎に自身の飼育スタイル・管理方法に合ったシステムを構築して下さい。

「日照時間(照明)」

季節変化を表すには温度変化が最も重要と捉えていますが、それに併せて日照時間を変化させる事により、より人工下での季節変化・リズムを与える事が出来ます。日照時間の変化を再現するのには照明をタイマーにて管理し、照明時間を月単位に変化を付ける事でコントロールが出来ます。
夏季と冬季の日照変化を表すには、照明時間の変化を段階的ではありますが、最長で4時間の差を付ける事で表現出来るでしょう。

◇ダニ対策

「個体導入時の注意」

爬虫類を飼育する上で避けられない問題の1つにダニ対策があります。よくCB個体ならば安全との声を聞く事がありますが、その解釈は間違いと思って下さい。確かに管理飼のされているCB個体は、WC個体に比べればその危険性は少ないかもしれません、しかし絶対的に安全とは言い切れないのが現状なのです。個体の流通ルート1つを例に考えても、ブリーダーからシッパーに渡り日本の輸入業者に一旦ストックされShopの元へと渡る、そのどの経緯においてもダニとの接触は有り得るのです。

現在の飼育環境がダニの被害に犯されていないのであれば尚更の事、個体の新規導入に際してはより注意が必要となり、その対策も重要と言えます。新規個体導入時には現在の飼育個体との隔離した管理期間を設ける事が得策と言えるでしょう。この隔離はダニの移行を防止する目的以外にも、個体の安定や給餌の準備等にも活用できますので、決して無駄な処置や時間とはなりません。

「駆除の方法」

ダニの駆除には個体の健康状態が良好である事が第一条件です。隔離さえしていれば、脱皮のサイクルを利用するなど時間を掛けて行ったとしても決して遅くはありません。注意すべき点は、キーパーがダニの存在に神経質に成り過ぎ、個体の状態を診ることよりもダニ駆除を優先させてしまう等の、強硬な駆除により、個体の衰弱や拒食を招く事の方が問題です。

「フロントライン」

私が現在、有効性を確認し、実際に使用している薬剤について説明いたします。薬剤の名称はフロントライン(スプレータイプ)動物用医薬品です。動物病院等で購入する事ができ、説明書を抜粋し書き出しますと、『フロントラインの殺虫成分、フィプロニルは昆虫、寄生虫等の中枢神経伝達物質であるGABAの働きを阻害すると言う特殊な作用機序を有します。フィプロニルは、ノミ、マダニ等の外部寄生虫のGABA受容体にのみ強い親和性を有し、脊椎動物のそれには、ほとんど作用しません。また、フィプロニルは、動物の体内にはほとんど吸収されず体表にとどまります。』説明文では解りづらいのですが、要は殺虫成分がダニの中枢神経の伝達を遮断し、狂い死にさせてしまいその作用は脊椎動物には影響ない‥‥と説明されております。

また、その殺虫効果はかなりの即効性がある事が証明されている上、持続性に関してもマダニに対して約1ヵ月有効と頼もしい限りです。この薬剤は主に犬、猫用に開発された製品の為、付属の使用方法などはそれに準じて明記されていますので、注意書等は共通項目でしょうが、爬虫類に対する使用方法については若干の応用が必用な為、私が実践している方法を参考までに明記致します。
「使用上の注意点」
この薬剤使用時の注意点は溶解の為に使用されているアルコールにあります。よく「犬、猫の使用するのと同じように蛇にも直接散布したのですが‥‥」 と言う話を耳にしますが、この薬剤での大きな懸念材料はこの直接散布時のアルコール臭気にあるのです。実際に使用するとお解かりになる事と思いますが、その匂いは決っして優しい香りとは言い難く、かなり強い刺激臭があります。感覚的見解ですが、直接散布を行った個体をそのままケージに戻すなどの行為はかなり危険を感じる程です。
そこで使用時の注意ですが、薬は必ず直接散布するのでなく事前にタオルやキッチンペーパー等に一旦散布し、時間経過によりアルコール臭が和らいでから蛇の体に沿ってしごく様に塗るようにします。この際、薬剤が多量に付着しますと体表がガビガビと固まった様な状態になってしましますので、20〜30分経過しましたら薬剤を洗い流してください。この洗い流す行為による薬剤効果の薄れはさほど感じられませんので、状態を確認しながら実践して下さい。また、薬をつけた後の個体を白い紙を敷いたプラケース等に安置し、観察していますと数時間のうちにダニが落ち効果を確認できる事もあります。

「フロントライン 応用編」

先に述べたようにこのフロントラインは持続性にも優れており、効果が残留する事からケージに散布する事でもダニの死滅、予防に効果があります。使用法は簡単で、ごく少量をケージの四隅に散布し、アルコールの臭気がなくなればそれでもうOKです。この方法は個体の新規導入の際の予防にも役立ちますし、運悪くダニが発生してしまった際のケージの消毒にもなります。

「注意」

注意する点は必ずアルコール臭が無くなってから蛇を戻すと言う事です。アルコール臭が充満しているうちに蛇を戻しますと中毒状態に陥る事があり大変危険です、
必ず臭気を確認する様にして下さい。

「備考」

現在、フロントラインの爬虫類への使用は獣医師の方々でも見解は様々のようです。このHP上で言う有効性とはあくまで私(レギウス)個人の見解ですので、その使用には注意点の確認と各自の判断、責任の元 行って下さい。

「その他の方法」

薬剤に抵抗のある方がよく蛇を水に浸ける駆除方法をされる事がありますが、この方法ではダニが鱗と鱗の間に出来る気泡に入り込み、なかなか水死させる事が出来ず、思ったような成果を挙げられないのが実情です。薬剤以外ではオイルを用いる方法にて効果があることを確認しています。使用方法としては、蛇全体にオイルを塗り、暫く放置します。 放置する際に入れ物の敷物を白い紙等にしていますと、苦しくなった、ダニが体から離れるのが確認できることがあります、そのままでは死滅しませんから体に戻ることがないように必ず潰す様にしましょう。ある程度の時間放置しましたらキッチンペーパー等でしごく様にオイルを拭き取ります。

この行為を数日置きに数回繰り返しますと、たいがいのマイト(小さなダニ)は駆除出来ると思います。さらに先ほど効果の薄いと記した、水に浸ける方法も事前にオイルを塗りますと効果のある方法に変わります。オイルを塗る事で蛇に油膜がかかり気泡に逃げ込めない為、窒息させる事や、死なないまでも苦しくなり体表に這い出てきますので駆除し易くなります。オイルの種類は、私は薬局などで購入できるバージンオイルを使用していますが、他の種類でも同様の効果はある事と思いますので、各自の判断にて選択して下さい。

「バボナの使用について」

ダニの駆除として昔からShop等でも使用されてきた薬剤の1つに「バボナ」があります。この薬は購入の際には印鑑が必要であるなど、かなりの劇薬です。最近はTV-CMなどで人家に吊るして使用している場面が放映されたりしていますが、私はこの薬をフロントライン等と違い使用法によっては節足動物等だけでなく人体にも影響があるほど危険な薬と捉えています。

バボナはShop等でも昔から薬剤をフィルムケースに入れてケージに置いて使用され、爬虫類関連の薬剤がない時代ではあたりまえのように使われてきたといえます。実際 私も爬虫類を飼育したばかりの頃は使用した経験もあるのですが、現在では、その使用にはとても危険を感じ、使用を反対とする意見の持ち主もあります。

私が使用反対論者に変わったのにはある疑問がきっかけとなったからなのですが 、それはバボナの使用上注意に「劇薬の為、人の居るところでの使用の制約」が有ったことです。爬虫類のダニ駆除が目的で使用する際、薬剤をかなりの小さいサイズに切りますが、それはあくまでも人から見ての大きさであり、爬虫類のサイズで考えれば相当の分量を置かれたことに成ります。ましてやそれが気密性の高いケージで使用するとなると‥‥。その効果はダニの駆除どころでは無いと考えたのです。

この薬の効果は薬剤が気化する事で効果を発揮しますが、成分は空気より重い為、下に沈殿する形となり主に地表を生活空間とする爬虫類にはたまらないものだと思うのです。よくバボナ使用の際、蛇などがケージの上部に首をもたげゆらゆらしている姿を目撃いたしますが、この姿は薬の中毒により、いわゆるラリっている状態なのです。

現在も尚、Shop等で使用され、雑誌等でも駆除薬として紹介されているバボナですが、爬虫類関連の薬剤等が豊富にある現在、古い慣習・認識は正すべきだと私は思うのです、上記 記載内容はあくまでも私(レギウス)の私見ではありますが、経験に基づいた意見でもありますので、参考にして頂ければ幸いです。

◇ボールパイソン( Ball Python / Python regius )の繁殖
◇ポイント

繁殖を視野に入れた飼育のポイントを一言で表せば「個体の育成と温度変化」となります。多くの爬虫類に共通していえる事ですが、生殖活動と体重(脂肪の蓄積)には密接な関係があり、基本的に雄雌ともに適正な「育成」が必要といえます。また、爬虫類に於ける代謝活動が環境温度等の周囲温度に依存する事から判るように、「温度変化」が繁殖活動に於ける最も重要なシグナルと考えられます。

◇性成熟・適正年齢と個体育成の重要性

繁殖を行う上でその個体が性成熟をしているかどうかを知る事はとても重要な事です。繁殖を行う上での一般的ガイドラインは、到達年齢を雄で2歳、雌では2,5歳〜3歳とし、雌の場合は更にこの年齢時点での体重が1500gを超える事を推奨しています。

雌が卵黄の形成を進める為には十分な脂肪の蓄積が不可欠で有り、産卵にはそれに伴う多大なエネルギーが必要と云う事なのです。その事からも雌の性成熟は年齢の他に、その体格(体重)に大きく依存すると言う事が伺え、実際に飼育環境を整えたとしても発育不足や過度の肥満個体では卵胞の発育が止まる事や卵が不完全な発育をする等の弊害が起こる事が報告されています。

◇「休眠期」=「繁殖期」

日本に於けるBall Pythonの成体は、冬季(11月〜4月を目安)になりますと「休眠」という独特のサイクルが訪れます。実はこれはその成体が性成熟を迎え繁殖期に入った事を意味し、Ball Pythonの「繁殖期」=「雄雌共に食欲減退が訪れる」という図式からなる自然のリズムなのです。

野生下に生きるBall Pythonは その生息地 アフリカの自然の摂理に則り、卵の孵化にとって適切な温度と湿度が得られ、生まれて来た幼蛇が十分な餌を得る事が出来る野生下の周期合わせた明確な繁殖期が確立されております。

Ball Pythonの代表的生息地アフリカ トーゴに於ける冬季(繁殖期)は8月と日本とは正反対となりますが、生息域の季節サイクルは飼育下で育ったBall Pythonでは特に問題とはなりません。繁殖と季節サイクルはとても重要な関係を示しますが、温度変化や照明等での日照時間を調整することにより、日本の四季・季節変化にBall Pythonの「体内時計」を合わせる事で簡単に解決いたします。

◇メカニズム その1
Ball Pythonの雌は繁殖期になりますとその体に卵黄育成に十分な脂肪の蓄積があれば、季節変化等(温度変化)の外的刺激により卵胞(follicle)の形成過程が始まります。この卵胞とは卵巣内に存在する袋状構造物で、その中には発達した卵子を含んでいます。未成熟状態の卵胞のサイズは直径約5mm、その後発育が始まりますと卵胞は次第に大きく成長して行きます。発育開始から約4〜8ヶ月後には、卵胞は最終的には産み出される時の卵程の大きさとなり、卵胞が十分に発育しますと卵巣より成熟した卵子が排出される、いわゆる排卵が起こります。

このBall Pythonの排卵はとても容易に確認が出来ます。排卵を迎えた雌個体は排卵後24時間以上の間、体の中央部に大きな餌を飲み込んだ際のような極めて異常な膨らみが観察できます。この膨らみは卵巣から卵子が放出される際に起きる膨らみで、放出された卵子は卵管に1個ずつ収まるまでは大きな房状の塊となっている為に起こる現象なのです。そして、卵子が順にそれぞれ卵管に収まりますと、自然とこの膨らみは認められなくなります。

排卵が起こり、卵子が1個ずつ入った卵管はその後 細長く発達して行き、この排卵後に受精が行われ、受精が成功しますと胚子の発育が開始、卵管内での卵殻形成過程も直ちに始まります。胚子の発育のおよそ半分、そしてもっとも重要な部分は産卵前のお腹にある段階にておこなわれるという事が認められていますので、この時期の環境温度の低下は特に注意が必要と言えます。雌を保温する為の確実な温度の確保とケージ内に個体が環境を選べる適切な温度勾配を与える事を心がけて下さい。

◇メカニズム その2

より効率の良い繁殖を考えた計画繁殖の場合、雌の卵胞育成過程を的確に捉える事と、交配のタイミングを掴む事はとても重要と言えます。

雄は通常、繁殖期を通して交尾が可能であり、雌は精子を体内に一定期間貯める事ができるメカニズムを持っています。USの報告では最終交尾から受精までの期間が6ヶ月に及んだ例も報告され、結果この期間貯蔵可能との判断が出来ます。

又、Ball Pythonの場合、卵胞育成の維持には早期の段階での雄との接触が必要だと言う事実があり、卵胞育成過程の早期に雄との接触が無い場合、形成過程が始まった卵胞であったとしても発育を止めてしまう事や受精確率が低下すると言う弊害が起こり易くなります。

受精確率の低さは無精卵を産む確立が高くなる事に繋がります。卵胞の再吸収は成熟卵胞のおよそ半分の大きさ(直径約25o)までは出来るとされていますが、ほぼ成熟卵胞に近い大きさになってしまってからの吸収はされません。従って排卵後に未受精にて卵が形成された場合、無精卵を生む結果となり、この事は雌にとって無駄で多大なエネルギーを消費させる事となるのです。

◇エコー(超音波診断)

より確実で効率的繁殖を求める場合、とても有効な手段としてエコー検査が挙げられます。エコーの使用により卵胞の成熟過程を確認しながらの無駄のないペアリング(交配)を行う事が出来るのです。このエコーを使用する事で、卵胞を発育前である5mmの段階から確認する事ができる為、交尾のベストタイミングと考えられる、卵胞の大きさが直径10mmに成長した時点でのより確実なペアリングを行うことが出来ます。

◆ エコー(超音波診断)の模様を画像にて掲載しています、どうぞご覧下さい。

◇雌のシグナル

雌の卵胞育成過程を知る術は、なにも高価なエコー等の機材に頼る事だけが全てではありません。独特なサイクルとメカニズムを持つBall Pythonであってもポイントを定めた個体観察と記録・統計との照合により、既に多くの情報を捉える事が出来ています。

Ball Pythonの場合、雌は卵胞の発育が開始しますと自然と飼育環境の冷たい場所を求めるようになります。この冷たい場所を求める行動は通常排卵が行われるまで続き、反対に排卵後では暖かい場所を求めるようになると言う事が判っています。また、雌は排卵が近づきますと腹部の側面を上に向けてとぐろを巻く、「回転姿勢」をしばしばとる様になる為、併せて排卵期の予測も立てることが出来るのです。プロブリーダーの様に1頭の雄にて数頭の雌を繁殖させる効率的繁殖をするのでなければ、この行動観察と適正時期でのペアリングによる何回かの交尾をさせる事で、Ball Pythonの繁殖は成功に導かれる事でしょう。

◇ペアリングの方法

ペアリングの方法としては、雄のケージに雌を入れることがその後の繁殖に有利だと考えられます。雄は通常飼育されている自分のケージをテリトリーと考えている為、自身のケージに雌が投入されますと、雄はテリトリー内への進入者として雌の存在(匂いに刺激を受け)に強く反応し、交尾へと導かれます。

但し、この反対の行為(雌ケージ側に雄を投入)でも繁殖自体に弊害があるわけではありません。雄が雌側ケージ内の新たな環境に注意を向けてしまう事から、繁殖行動に移行するまでに若干の時間が掛かる程度です。

◇交尾

交尾に関しては雄の「やる気」に頼る部分が大きく、雄個体は性成熟さえしていれば、育成サイズよりはその「やる気」が重要と言えます。通常やる気がある雌雄の場合、ペアリングを行いますと、雌では尾を“くねくね”と小刻みに振るような行動を見せ、雄は雌の存在(匂い)に反応し、雌を追いかけ体を沿わせながら、押し付けるような形を取ります。この様な行動の後、雌がこれに反応し尾を高く持ち上げ受け入れ姿勢を取りますと、雄はケズメをまるで位置を探るように“うねうね”と動かしながら尾を絡ませて行き、交尾となります。

通常、この興奮状態はファーストコンタクト時が一番顕著に現れますが、時期が早かった場合や、雄にやる気がない場合などではこの様な反応が見られません。ペアリングから24時間以上が経過してもその様な交尾行動が見られない場合は、一旦ペアリングを解除し、単独飼育に戻して下さい。インターバルを取る事で、互いの匂いの痕跡を一旦断つ事となり、次の交配時の新鮮さを保つ事が出来ます。

交尾の確認は主に夕刻〜深夜・早朝にされていますが、交尾時間は数時間〜半日以上続く事もあり、この交尾時間の長さにより、その確認・観察は容易な事と思います。逆にあまりにも短い交尾時間であった場合には不成功である可能性が大きいと言えるでしょう。交尾時の形状を筆者は「指きり」をした形と表現していますが、お互いの総排泄孔より先を深く絡めている場合にはより確実な交尾が成されている様です。また交尾後、雌の総排泄孔に蓋をするようにある大きな鱗を確認しますと、鱗のどちらか側が総排泄孔内に折れ込んでいる場合があります、これはヘミペニスの挿入による名残であり、交尾確認の1つの目安ともなります。

◇コンバット

雄は「やる気」が肝心と書きましたが、繁殖を考えた雄個体がなかなかやる気を示さない事は間々ある事です。こんな時の対処法として有効性が証明できている方法があります。その方法は、ペアリングに際し、やる気を見せない雄を一旦単独飼育に戻した時に行うのですが、繁殖目的の雄側ケージ内に別の雄個体(あて雄)を投入いたします、先住者である雄個体(繁殖雄)はテリトリー内に別の雄(あて雄)が侵入した事に反応し、排除行動をとります。この排除行動は攻撃と言うよりは全身を使い侵入者を弾き飛ばすという様な動きであり、時に侵入者側の雄もこれに応戦し同様の動きを見せることから、まるで戦っている(コンバット)様に見えるほどの動きを見せます。Ball Pythonのコンバット行為は通常相手を怪我させるほど激しいものではありませんが、目的は儀式的戦闘による雄への刺激ですので、ある程度の反応が観察できましたら、投入した雄個体(あて雄)を速やかに取り除きます。このことで先住者側の雄個体(繁殖雄)はテリトリー内での戦いの勝利者となり、雄としての優位性を保った事となるのです。雄は勝利したことの興奮状態が、「やる気」に繋がり、その後の雌投入に際して、今までやる気のなかった雄の交尾を導いた実績があります。

実行に際して注意する事は、あて雄側の個体は繁殖雄よりも体格的に劣っている方が良いと言う事です。あて雄側が勝っていますと繁殖雄が怯んでしまい逆効果の場合もあるからです。またあて雄側が興奮状態を示しているようでしたらそれを利用し、別の雌個体との新たなペアリングにて同様の成果を得られる場合もあります。

◇繁殖期の給餌

Ball Pythonの成蛇では、繁殖期に伴い雌雄共に食欲減退傾向にあると記しましたが一部に例外があります。

雌の場合 早い時期での交尾の後、猛烈な食欲を示す時が有り、これは卵胞育成の初期段階に起きるエネルギー摂取の為の自然な行為ですので、個体の求めるだけの量を与えて下さい。その際注意する点は、普段よりも小さめの餌を与える事や消化に必要な適正温度を維持するなど、必ず個体に食滞を起させないという事です。この食欲は卵胞の育成に伴い自然と停止し、その後は産卵まで餌を捕ることはありません。また、妊娠後期と思われる雌個体への給餌は安全の為にも行わない方が得策と言えるでしょう。

雄個体への対応としては、ペアリングの解除後、やはり通常時より小さめの餌での給餌を試みて下さい。食べる様であれば交尾による消耗されたエネルギーの回復に繋がりますので、雌と同様の注意点のもと、個体が求めるだけの量を与えて構いません。

◇繁殖用ケージ・床材・水入れ

「繁殖用ケージ」

繁殖を考えてのケージ内セッティングで最も重要な事は、ケージ内にて涼しい場所と暖かい場所との温度勾配を設けてあげると言う事です。この事は雌がケージ内にて最適な温度域を選択できると共に、我々キーパー側が雌の行動観察により、雌のシグナルを捉える事にも繋がり、繁殖期の重要な情報を得るのに大変有効と言えるのです。

温度勾配を設ける1番簡単な方法は個体が最適な温度域を選択できるだけの床面積の広さを作り、部分的温度管理をする事です。

1例を紹介しますと、長さ80p×幅43cm×高さ18cmのケージにて、片側下部にテープヒーターを設置し、一部の高温域を設け、環境下に高温域と低温域の温度勾配を作り管理。このシステムですと成体の通常飼育から繁殖期のペア組み、産卵までの管理が一括して行えます。

◆参考画像 「USケージ」

日本に於いて全てのキーパーがこの環境を用意することは不可能と思われますが、そこはキーパーごとの創意工夫で解決して行くしかありません。要は底面積と温度域を如何に設けるかが解決の鍵となります。その解決策の1例として、幾つかの方法を紹介いたします。

<例1>

狭い底面積をカバーする為には反対に若干高さのあるケージを用いて、空間を効率よく利用する方法があります。USでは背の低い(18cm)引き出し式ケージを用いる事によりケージとシェルターを兼用するスタイルを取っていますが、反対に高さのあるケージでは必ずペアリング用のシェルターを入れるセッティングを行います。

◆参考画像 「ケージ例 1」

<注意>
この時 用いるぺア用シェルターは通常よりも重要な役目を果たしますので、必ず2頭が入って収まりの良いサイズを選択してください。

この事によりペア個体はシェルター内外に別空間が出来た事となり、更にシェルター上部も立体空間の場として活かすことが出来ます。このセッティングにより、個体はケージ内に幾つかの温度域と空間の選択が出来る事となり、行動観察も行える事となります。実際に筆者はこの方法で自作の600×450×350ケージにてペアリングを行い、交尾・産卵を成功させています。

<例2>

底面積のキープと個体の温度選択を重視した場合、2層式ケージの使用も適しています。この構造は必要な底面積を上下空間にてカバーすることが出来き、個体が上下の温度域と環境を自由に選択(移動)できる事からも飼育・繁殖共にとても有効なケージと捉えています。この構造は温度域の設定が明確な事から、個体の行動観察がより容易に出来き、繁殖用ケージとして大変有効な構造と捉えています。

◆ 参考画像 「ケージ例 2」

「床材(産卵床)」

USでは多くのプロブリーダーが通常飼育時に使用している床材(アスペンチップ)をそのまま産卵床としても兼用しているのを確認していますが、このタイプが産卵床として全ての面に於いて万全とは言えません。筆者も実際に試行錯誤の段階にて、このアスペンチップを初め、黒土、牧草等、野生下を想定した様々な産卵床を試してみましたが、全てに於いて、雑菌の付着等の衛生面に問題を感じました。

また、Ball Pythonはあまり湿度の高い産卵床を好まない点から、ナミヘビ等に多く用いられる湿らせた水苔をタッパー等に敷き詰める産卵床はあまり好まない傾向にある様です。
以上の様な経験から筆者は、現在、雑菌の付着などの衛生面や適度な湿度維持を考慮していった結果、新聞紙のような紙類を床材としてケージ全体に厚く敷く方法が適していると判断し選択しています。

紙類は適度な湿度・乾燥状態を保つ事が出来、更には衛生面、交換性の面から見ても利便性に優れていると判断しています。産卵後速やかに卵を取り出すことが出来るのであれば過度の乾燥にさらされることも無いので、今の処、有効な産卵床と判断し使用しています。

「水入れ」

産卵が近づきましたら産卵時の事故などを考慮し、特に水入れは飲料目的の小さなサイズに変えることをお奨めします。水は良く飲む事を観察していますので、通常飼育時と変わらず新鮮な水を与えるようにして下さい。

◇妊娠の確認と産卵の予測

外見の検知のみで受精が成功したかを判断する事は難しい事ですが、雌が妊娠後期に示します幾つかの特徴を明記しますので妊娠の判断材料として下さい。

1、 妊娠後期の雌個体は大変神経質になっており、Ball Pythonが通常示す事の無い過敏な程の攻撃行動を見せる事があります。

2、 妊娠後期になりますと、見た目のボリューム感に変化が現れます。背骨が目立つようなり、腹部のみが膨らんだ様な状態になります。この事は、蓄積した栄養(脂肪分)が卵へと移行し、母体自体は痩せますが腹部は卵の発育により膨らむ為の現象と捉えています。

3、 卵の育成が進んだ雌個体は餌を捕る事はまず有りません。また、妊娠していると思われる雌個体に餌を与える事は食滞を招く恐れがある為、給餌は避ける方が得策と言えるでしょう。 

◇産卵の前兆
産卵日を予測するのに、一番明確な前兆は産卵前に必ず起こる脱皮と言えます。
データ上では平均28℃〜30℃の環境温度を保ちますと雌はこの最終脱皮(産卵前の脱皮)から25日〜30日を目安にして産卵が行われます。
◇産卵

産卵は深夜から明け方に行われる事が多く、雌は卵を産み落としますと、その都度卵をとぐろに巻き込む行動をとります。産卵直後の卵はとても軟らかく(感触は水風船のようです)幾分のぬめりが有りこの軟らかい状態のうちに雌が抱卵を行う事で卵同士がくっつき合い、ぬめりの乾燥と共に卵塊状態になるのです。自然界では雌がこの抱卵状態を保ち、温度や時には湿度を保ちながら孵化を待つのですが、飼育下では孵化までの環境維持が難しい事と産卵後の雌個体により早い給餌を再開したい考えからも、孵卵器に移しての人工管理の方が良いと言えるでしょう。産卵後の雌は卵を守る防衛本能からか、総じて普段からは想像できないほどの攻撃的行動を見せます、雌から卵を取り出す際は、抱卵状態の雌にタオル等をかぶせるなどして、攻撃行動を抑えながら雌の抱卵を慎重にゆっくりと解いてあげる必要があります。産み落とされたばかりの卵は持ち上げるのが困難な程の柔らかさの為、ある程度時間経過を見てから、適度に乾燥し硬くなった状態からの回収をお勧めします。

◆産卵の様子を連写画像にて掲載しています、どうぞご覧下さい。

◇産卵後の雌個体への対応
抱卵から雌個体を外す際に1つ確認してい頂きたい事は、卵の産み残しの有無です。体内に残された卵の有無は手の掌で個体の腹部を触診する事で確認で出来るのですが、産み残しが確認できる様でしたら腹部上部から総排泄孔に向かって優しく絞るような行為で排出を試みて下さい。但し適切な判断や熟練も必要な事から、この様な場合は速やかな専門獣医師への相談をお勧め致します。

産卵後の雌は腹部の大半を占めていた卵を産み落としたことで、その姿は産卵前とは見る影も無い程のげっそりとした状態に変貌している筈です。産卵後の雌にはエネルギー回復の為にも、早い時期に給餌を再開したいのですが、Ball Pythonの場合、産卵後直ぐに採食(捕食)する事は大変稀な事です。

産卵後の雌は卵を取り出した後も産卵場所に執着し、卵が無くても抱卵姿勢を保ち、卵を守ろうとする行動を見せます。この様な行動を示す雌の場合、そのままでは餌への捕食行動はまず取りません。この事は産卵に伴う「匂い」の残留により、雌が存在しない卵(匂い)に対し保守行動を継続してしまうことが原因と考えられています。解決方法としては産卵後のケージを洗浄する事や交換をする様な単純な対処で良く、産卵後の雌個体自体を洗う事もとても効果的な手段と捉えています。

※この匂いの痕跡を断つ行為はとても重要なポイントと捉えておいて下さい。

ケージや自身の体から産卵に伴う「匂い」が取れますと、雌個体は次第に落ち着きを取り戻し、通常数日〜数週間のうちには餌を捕るようになります。一旦採食方向に進んだ雌は猛烈な食欲を示す事と思いますので、個体の状態を確認しながらですが給餌頻度を高めるなどして、個体が求める量を適正に与える様にしてあげて下さい。この給餌は個体の体力回復だけでなく、次回の繁殖・産卵にも繋がるとても重要な給餌と言えます。

◇雌の体力回復

雌は一回の産卵により相当の体力を消耗致します。しかし、産卵後の給餌が順調に進んだ場合には、その年の繁殖期までには十分な体力の回復は望める事でしょう。
雌個体に体重が戻り、十分な体力回復が成されていれば、毎年の産卵は可能です。但し、個体の状態把握は慎重に行って下さい。体重・体力が戻らないままでの連続した交配や産卵は個体にダメージを与える事に繋がり、死を招く場合もあります。

筆者の経験上、毎年産卵する個体は非常に少なく、体力の回復に関わらず、1年置きに産卵する個体などそのサイクルは個体毎に様々です。先に推奨した記録の蓄積にて個体の特性を把握する事をお勧めします。

◇孵卵器

孵卵器のタイプ(構造)はどの様な形を選択するにしても、一定の温度と湿度が保て、卵が必要とする量の酸素を得る事が出来る構造であれば基本構造は良いでしょう。構造上注意する点は、卵が水滴などで濡れる事が無い工夫が必要です、卵全体が濡れた状態のままになりますと酸素の交流が絶たれ、胚子の死亡に繋がる事となります。

Ball Pythonの卵は平均して全長80o 〜 90o、幅40 〜 45oとかなりの大きさの為、産卵数が平均して4 〜 8個と少なくとも、卵塊の状態になりますとそれなりの大きさ(体積)になります。卵は一度乾燥して卵塊状になりますと個別に引き離すのは容易ではない為、そのままの卵塊状態にて孵卵器に入れる事となり、この事を事前に予測・計算し孵卵器の容量を考えて下さい。

孵卵器は必ず最終脱皮が確認できた時点にはセッティングを済ませ、試運転しておく事をお奨めします。産卵までの期間を利用し、孵卵器内の温度・湿度を適正に保ち万全を期すことで、器具等の不備による不慮の事故を回避する事に繋がります。少なくとも産卵の2〜3日前には孵卵器を実際に稼動させ、孵卵器内(産床)を適正な温度と湿度に保っておくことが大切と言えます。

構造上の注意点としては、密閉型孵卵器では、定期的な酸素の交換が必要な点が上げられ、空気の取り入れ口を設けた孵卵器の場合では湿度の確保と、過度の乾燥状にならない様な管理をする必要性が上げられます。

 
◇産床・孵化基
例 1:

USのプロブリーダーが実践しているスタイルと算式で表した報告を明記しますと、

培養基の用材にはパーライト1に対しバーミキュライト2の割合でまぜた混合物を使用し、この混合物5に対して水を1加えて攪拌し使用するとあります。

例 パーライト 10 : バーミキュライト 20 : 水 6

全ての割合は体積で算出されている為、用材の粒の大きさ等を考慮し、若干の調整が必要な事となります


例 2 :

筆者はセッティングのポイントを「孵化基は十分な厚さに敷く」「卵の底面に接する部分はある程度の乾燥状態に保つ」「湿度はあくまでも空中湿度にて保つ」とし、下記の仕様にて実践をしています。

容器 : 直径25cm 高さ18cm の 円柱形容器(容量6リットル ) 蓋 : 高さ 5cm 空気穴なし 

孵化基 : ビーナスライト(パーライト) 100% を 高さ 約10〜12cm (約3リットル程度) 厚めに敷き詰める。

水 : 

試運転時に水・約500ccを入れ、湿度計にて数値を確認しながら都度の水分補給により湿度を50%〜80%程を目安とした数値にて安定させる

(但し、湿度の%は孵卵器の構造によっても違ってきますので、あくまでも目安として頂き、卵が 過度の乾燥状態 や 蒸れた状態 にならなければ、数値はさほど気にする必要はありません。どちらかと言うと、手を内部にかざした時の適度な暖かい温度としっとりとした湿り気を肌で感じ、判断して頂ければと思います)

セッティングのポイントとしては、孵化基(ビーナスライト)を設定量の約半分程敷き詰めた時点にて水(約500cc全量)を注ぎ、下層全体に行き渡り・安定させた後、残りの孵化基を入れる様にしております。この方法にしますと、下層の孵化基は水に浸かった状態であったとしても、卵の設置面となる上層部分は空中湿度に伴う適度な湿り気が有る程度の状態に保てます。

湿度保持 : 

「卵の底面に接する部分はある程度の乾燥状態に保つ」「湿度はあくまでも空中湿度にて保つ」と記した通り、卵の設置面が過度に濡れた状態は良くありません。あくまでも、空中の湿度を維持する設定を心掛けて下さい。

水苔の設置 : 

私は、空中湿度の調整目的として、孵卵器内部側面に軽く湿らせた状態の水苔を配しますが、その設置理由としては、空中湿度保持の目的だけで無く、「内部の急激な乾燥を防ぐ」「水苔の湿り気具合を観察する事による湿度状況確認センサー」「容器側面に滴り落ちる余分な水分を吸着させる」と言った多様な考え方から用いております。

因って、設置しております水苔は 水分を多く含んだ状態では無く、手でギュッと絞った・適度な湿り加減を良しとしており、水分過多の状態では、孵化基を過度に濡らす事にも繋がり、弊害が生じる恐れもありますのでご注意下さい。

酸素交換 : 

孵卵器の構造にもよりますが、私のシステムでは、1日〜2日に1回の割合で蓋の開閉をする事により、酸素の交換を行い、併せて卵の状態確認を行っています。また、その時に、蓋に過度の結露が確認出来た場合は、ふき取るなどのメンテナンスも行っております。

保温の注意点 : 

保温のシステムとして、お勧め出来ない方法は底面ヒーターの上に直接容器を乗せる方式です。この設置方法にしますと、下部の水が常に蒸発する事と成り、内部に蒸れが生じてしまいます。蒸れた状態は、結果 湿度過多or卵の表面に水気が帯びる等が起こり、大切な卵が死滅してしまう場合もありますのでご注意下さい。

保温のポイントとしては、「外気温の環境を丸ごと保温出来るシステムを構築し、孵卵器の外部と内部を同じ温度帯で管理する事」が理想であり、そうする事によって、外気温に少しばかりの温度上昇が生じたとしても、孵卵器内部は、湿度の関係により、温度が一気に異常上昇をしないなどの安全面でも利点があります。また、生体の温度管理をオイルヒーターなどで飼育環境ごと行っている方であれば、孵卵器を施設の上層部に設置するだけでも、安定した温度管理が出来る事と思います。

◆参考画像 「孵卵器 1例 」

◇卵の発育と孵化の前兆

産卵後ぬめりのあったゴム状の卵は乾燥に伴い、しっかりと堅さのある綺麗な白い卵へと変わって行きます。それに伴い透き通って見えていた内部も目視できなくなる訳ですが、卵の発育に伴う内部観察はキャンドリング(光を当てる事での透視検査)により容易にする事ができます。観察方法は至って簡単で、部屋を真っ暗にし、ライトで卵の片側から光を当て透かすようにしますと有精卵では卵殻の下部に塊が、そして周囲を血管が配している事を観察できます。反対に無精卵では光の透過性が悪く、血管の発達した走行も確認できません。

卵は内部の成長に伴い、外殻寸法も数ミリ単位ですが大きくなり変化をしていきます。孵化の前兆としましては、孵化2週間前位から卵に凹みが見られるようになり、適正温度での管理がされていれば産卵後約60日が孵化の目安となります。

卵の孵化前の凹みは正常な事ですが、早い時期で卵がしぼむ事は孵卵器内の湿度低下が原因の場合があります。このような時は産床に水分を補給するなどの対処が必要で、湿度が正常に戻れば余り心配する事はなく、卵も元の形に戻る事もあります。

卵はこの基本構造にて設定温度を30℃前後に保ちますと約2ヶ月で孵化となります。Ball Pythonの雌雄の決定は孵化温度には関連しませんので、サーモスタット等の使用による適正温度の維持を心がけて下さい。低すぎや高すぎる温度では孵化率低下に繋がりますので注意が必要です。

◇胚子の死亡

卵が運悪く、無精卵だった場合、産卵から数日後には、卵の表面にうっすら湿り気が帯びる様になり、次第に表面に凹みや収縮が生じ、カビの発生が起こります。
また、卵は無精卵でなくとも、様々な要因により発育途中で死亡する場合があり、胚子が死亡しますと酸素の交流や殺菌作用が無くなり、同じく次第にカビが発生したり萎んだりと言う変化が現れます。

卵塊状になっている場合、健康な卵への影響を心配されるかも知れませんが、多くの場合、そのまま放置しておいて問題はありません。隣接する死亡卵が朽ちてきても健康な卵である場合はそれの影響を受ける事なく成長します。

但し、生きている卵であっても時にはカビが発生する事もあり、卵の表面が半分以上カビに覆われた卵が無事に孵化した事例もありますので、焦らず確実な確認を心がけてください。また、死亡卵の処理は、1つ1つが個別の場合でしたら取り除く事は容易ですが、卵塊状態での死亡卵はそのままの方が良いでしょう、切開等での排除の方が環境衛生を犯すことからも得策とは言えません。

◇孵化

卵にカッターで裂いたような亀裂が現れますといよいよ孵化の瞬間です。何箇所かに線のような傷ができ、大きな亀裂が出来ますと、まず鼻先が、そして頭を覗かせます。多くの場合いきなり全身を現す事は無く、暫くは空気を吸う行動や、辺りの様子を伺う様な姿を観察する事が出来るでしょう。個体にもよりますが頭を表した後も卵黄の吸収が完了するまでは卵の中で過ごす様で、この卵での待機状態の幼蛇を無理に取り出すのはあまり良い行為とは言えません。幼蛇が自力で出てくるのを見守りましょう。大抵の場合1両日中には完全な孵化が終了する事と思います。

孵化した幼蛇の中には稀に黄卵の吸収が完全に終了していない個体がいますが、自力で孵化した個体の場合は殆どの黄卵吸収過程は終えている為、必要以上の心配は要りません。その様な個体は湿らせたキッチンペーパーを全体に敷き詰めた小さめのケージにて単独管理し、乾燥状態になる事を防ぎながらの自然な黄卵吸収を待つ様にして下さい。

◆孵化の様子を画像と解説にて紹介しています、どうぞご覧下さい。

◇記録の重要性

個体を飼育する中で、個体毎の飼育記録を取る事はとても重要な意味を持ちます。
個体が都度に示す事柄をデータとして残す事により、個体の特性・リズムを把握する事ができ、飼育を行う上での貴重な情報源となるのです。

*記録の1例

1、 飼育記録 : 給餌日・餌の種類・排泄・脱皮日・体重など

2、 繁殖記録 : 体重・交配日・脱皮日・産卵日・卵のサイズや重さなど

3、 孵化記録 : 親個体・性別・孵化時の体重・脱皮日・給餌など

◇孵化後の幼蛇

孵化直後の幼蛇はとても繊細な表皮をしており、暫くは乾燥を避ける為にもケージの1部には必ず湿らせた水苔を配すなどの管理をお奨めします。管理上の問題からも個別管理が適しており、シェルターは必要ありませんが、新鮮な飲料用の水は必ず常設しておきましょう。このセッティングにて30℃前後の高めの温度をキープし、安置します。環境と温度管理が正常でしたら、孵化からおよそ10日で最初の脱皮を迎えます。

◇脱皮の前兆

多くの蛇類に見られるように脱皮の前兆としては目の白濁が上げられます。脱皮のおよそ5〜6日前から目の白濁と共に表皮も白く濁り、その後曇っていた感の目と表皮がクリアな状態に見えるように戻りますと1両日中には脱皮が始まります。

この初回脱皮が終わりますと、いよいよ本格的な幼蛇飼育の始まりです。脱皮後の幼蛇はこれがBall Pythonなのかと言うような攻撃行動を見せる事があります。この攻撃は防衛本能の表れですので、元気な証拠と受け止め気にする必要はありません。幼蛇は孵化後、数日間は体内に栄養を蓄積している為、捕食行動を見せません、よって7〜10日ほどは個体を環境に慣らすことに務め、水のみの管理で問題ありません。初回の脱皮を終え個体が環境に落ち着き、辺りを覗う行動を見せ始めましたら給餌を試みます。

◇幼蛇への給餌

孵化したばかりの幼蛇のサイズはおよそ体長30p 体重60 〜 80g 最初の給餌から楽にファジーマウスを呑む事が可能です。勿論個体差がありますので、個体ごとの適正な選択が必要な事はいうまでも有りません。

生まれたばかりの幼蛇に対する最初の給餌には少し暖めたファジーマウス程度の大きさから試みるのが良いでしょう。物怖じしない個体はこの時点で問題なく捕食しますが、多くの個体は、餌(ピンセット)を怖がり攻撃行動のみで終わる事が多いと思います。捕食行動をとらない個体には、日にちをおいての再給餌を行うほか、餌のサイズを小さくする、暗がりでの給餌、置き餌、活餌(ピンクマウスLサイズ〜ファジーS程度が最適)等、個体にあった給餌方法を選択していきます。たいていの個体は上記のどれかの方法にて初回給餌は完了し、その後同様の給餌が進むなかで餌食いが上がってきましたら、解凍して少し温めた餌でのピンセットからの給餌に切り替えて行きます。

もし、初めから生餌が手配出来る場合には、自然な本能に訴える捕食が導ける為、生餌の使用をお勧めします。生餌のサイズは必ずピンクマウス〜ファジーマウス 又はピンクラットまでの反撃能力の無い大きさとし、捕食者側が優位に立つ給餌方法を選択します。その方法とは生餌が乗り出せない程の高さが有る容器に入れる事や上部に穴を開けたシャルター等に入れる事で捕食者側が上部から覗き込む形になる置き餌のスタイルを選択します。この仕組みにより捕食者側の幼蛇は生餌との間に自身にとって安全な距離を保つ事ができ、慎重な反応と優位に立った捕食が出来る事と成るのです。

幼蛇はこの方法にて何回かの捕食を繰り返せば、餌の認識と捕食に対する自信が確立され、その後の空腹時のタイミングを見計らえば、ピンセットによる給餌に対しても臆する事無く反応し、冷凍餌への移行も問題なく行えるのです。

給餌が順調に進むと、幼蛇は旺盛な食欲を示す事と思います、筆者はBall Pythonの育成には最初の1年半がもっとも重要だと言う持論がある為、この時期にはおよそ3〜4日間隔の頻度を上げた給餌を行っています。餌のサイズを胴の太さ以下を目安にし、大きすぎない餌を一定間隔保ち与える事で、捕食行動を継続させる給餌を心がけて下さい。Ball Pythonは悪食な蛇では無い為、貪欲に食べる幼蛇でも欲求が満たされますと自然と捕食をしなくなります。

幼蛇の給餌で大切な事は、決して食べない個体に対して焦らない事です、人間でもそうですが、健康な個体であれば食のリズムは個性と捉えるべきです、幼蛇の場合1度リズムが出来上がればその後は順調に採食して行く筈です、返って食べないと言う焦れから個体に負担をかけ、拒食に導いてしまう事の方がはるかに危険です。

◇Assist feeding:アシストフィーディング

「餌を咥えさせ、自力で呑みこます」補助を加える給餌方法

幼蛇の中にはどうしても捕食行動を示さない個体も出てくる事と思いますが、その様な個体に対する給餌の手段として「Assist Feeding」と言う給餌法が有ります。日本語で表現すると「補助を加える給餌」となりますが、筆者の解釈は蛇に餌を咥えさせてあげ、自力で呑みこませると言う、あくまでも「咥えさせる」と言う補助作業のみを行う給餌方法と捉えています。専門的にはforce feeding(強制給餌)の1つとされる様ですが、下記の場合にはとても有効な結果を得られた経験から、条件付きではありますが、独立した1つの給餌方法と捉えています。

行う上での条件とは、あくまでも幼蛇の範囲であり、餌を認識させる必要がある場合、体力回復目的の一時的処置の場合としています。タイミングとしては、孵化後の幼蛇では、一定期間を経過後(およそ1ヶ月)も捕食行動をとらず衰弱の可能性が出た様な場合などです。この場合は病気等の兆候が見られない限り、早めの判断が得策です。また、WC・CH・CB個体を問わず、餌を捕った経験のあると思われる幼蛇に対しては、極度の衰弱や脱水症状が見られず、飼育環境も万全であるにも関わらず捕食行動が見られない場合には捕食を導く手段としてとても有効と捉えています。

 
◇Assist feedingの方法
餌のサイズは給餌個体の口に収めた時スッポリと収まる、あるいは少し余る程度の大きさを選択します。幼蛇の場合、口を開けさせる事は容易に出来ますので、与える餌を口先にねじ込む様に押し付け、口を大きく開けさせながら餌を口内に差し込みます。差し込むポイントは餌を喉元までに到達させ、軽く押し込みます。但し喉の奥に無理やり差し込むのでは無く、喉元手前、餌を歯に掛ける様な感じと思って下さい。そして個体が餌を咥え込みましたらそのまま放置し様子を伺います。多くの個体は初め抵抗しているものの、喉元まで到達している事と歯に掛かった状態で餌が口から外れない事から、徐々に自分から呑み込む行動を示す筈です。

幼蛇の場合、1度採食しますと捕食の方向に導く事は簡単な事ですので、何度かのこの「補助を加える給餌」を行った後、脱皮の周期を待ち、脱皮の1週間〜10日後に通常の給餌を試みて下さい。此処からは個体の様子を見ながらの判断となりますが、何度かの給餌でエネルギーの蓄えは有る筈ですから、個体が空腹になったタイミングで給餌を行えば、自発的採食は必ず導けます。

この様に「Assist feeding」はあくまでも「咥えさせる」と言うアシストをする行為な訳ですが、少なからず個体に負担を与える事に変りはありません。一連の流れをスムーズに終えるためにはある程度の熟練と的確な手腕が求められる給餌法であると言う事を認識願います。また、孵化〜幼蛇の間と限定した理由は、Ball Pythonの成体サイズでは「咥えさせる」行為時の抵抗力が幼蛇の比ではなく、扱い方によっては事故が起こる可能性が有ると判断した為です。有効性については同じと思いますので各キーパーの判断、技量に委ねますが、成体が餌を捕らないと言う事には、様々な要因が考えられる為、先ずは問題点の究明をお考え下さい。衰弱や環境の問題でない場合、状態の良いうちに試すべき他の給餌方法は幾通りもあります、考えられる給餌方法(餌の種類や与え方等)を試み、それでも良好な兆しが見られない場合の措置と捉えて下さい。

◇スパイダーの示す神経症状について
スパイダーの神経症状について

以前はきわめて高価で、日本では滅多に流通することもなかったスパイダーボールパイソンでありましたが、最近ではその繁殖力の旺盛さからか、もちろん優性遺伝であることもあり、国内CB、輸入個体を含めスパイダーを飼育しているボールパイソン・キーパーも多くなって来ました。そして、流通量が増加するにつれ、最近我が国でもスパイダー特有のちょっとした問題点が顕著に見られるようになり、ああだこうだと言う噂話が飛び交っている様であります。

具体的にどんな問題が起きているかというと、スパイダーに見られる一種の神経症状であり、ヘビの動きをわかっている人からすると明らかに異常な首振りや、空を仰ぎ見るような姿勢、体全体を変な方向に曲げる、細かな震えなどが多く報告されているのです。

スパイダー特有のこのような症状は、日本よりボールパイソン先進国であるUSAにおいては我々の知る限り2004年くらいから何となく密やかなうわさ話といった感じで語られており、実際 デイトナ・エキスポにて、あるブリーダーから「スパイダーはあの首振りがちょっとね・・・」といったような話は耳にしておりました。又、ちょうどその頃ボア科のヘビにおいてヘビ封入体病(I.B.D. ヘビエイズなどといわれる)が深刻な問題として発生しており、その特徴的な症状とスパイダーの神経症状が似ているため、「もしやI.B.D.?」と危惧したスパイダーキーパーもいた事と思います。その後、Kingsnake.com.のボールパイソンフォーラムでも何度かスパイダー首振り問題が討議されていましたが、結局の処そのような神経症状を呈していても、餌を摂ることや繁殖に使用することも可能であり、ましてやこれが原因で死亡することなどあり得ないという結論に達していたようでありました。もちろんこの症状がヘビ封入体病(I.B.D.)によるものではなく、他の個体に伝染するような病気ではないとも捉えられております。

ちなみにI.B.D.はボールパイソンがこれだけ普及している現状にもかかわらず、ボールパイソンでの発症はきわめて稀であると言われています。(アメリカの獣医師の中にはI.B.D.はボールパイソンの病気ではないといいきっている者もいる程です)この様な認識が浸透し、この症状がスパイダー特有のものであり、繁殖に何ら影響がないことがブリーダー達の共通認識になると共に、スパイダーを使用した魅惑的なデザイナーモルフ(バンブルビー、キラービー、コーラルビー、アルビノスパイダー…etc)が、次々と誕生していく過程で「首振り症状」などは顧みられる事なく、多くのボールパイソン・ブリーダー達がアマチュア、プロを問わずスパイダーの繁殖に邁進していったことは想像に難くありません。

しかし、このような風潮に釘を刺したのが、David&Tracy Barker 夫妻が2006年に出した本、BALL PYTHONSであります。この本のモルフ解説・スパイダーの項目において、「このスパイダー特有の神経症状が遺伝性であると確認された場合、繁殖に使用するべきではない」と言う意見が述べられ、スパイダーキーパーの気持ちを揺るがす事となったのです。しかし残念なことにこの本が発刊された頃には既に、人気モルフとして多くのスパイダーが繁殖され、個体数が増えると共にこの症状を示すヘビも増えてしまったと言うのが現状と受け止めております。

 
◇日本の現状

スパイダーは人気のある優性遺伝モルフでもあり、我々も含め多くのボールパイソン キーパーの憧れでありました。わずか数年前まではデイトナのエキスポ会場でも「Not For Sale」の文字と共に展示されており、我々が導入したころ(2004−2005年)でも値段が付いているヘビの中では高額の部類でありました。

我々が購入したスパイダー(どちらもオス個体)は噂に違わぬ旺盛な食欲と素晴らしく速い成長スピードで成熟し(なるほどこれならどんどん殖える訳だと妙な納得もできた)、生後2年未満で2006年、2007年と繁殖にも成功。どちらの親個体も心配していた神経症状のようなものはまったく現す事もなく、やはりごく一部の個体に限定した遺伝病なのかと捉えておりました。しかし最近日本でも国内CB、輸入個体も含めスパイダーを飼育する人が増えてくると共に、この症状を発する個体が散見されるようになり、Bp・Supply にも問い合わせが来る様になりました。アメリカの例では幼体時はまったく問題もなく成長したものが生後1年を過ぎるくらいから発症することが多いと言われていますが、国内の発生例ではもっと幼体のうちからこのような神経症状を現す例も多い様です。

今後の展望 Bp・Supply としての考え方

今まで我々が入手し、また経験した所見からこの症状を考えると以下のような事が言えます。

● まだ確定的ではないが、おそらくスパイダーの神経症状はこのモルフ特有の遺伝的原因によるものであると考えられる。(シブリングでは現状、確認されていない)

● 親個体に症状が出ない場合でも子供にでる事もあり、また必ずしも同腹のスパイダーすべてに症状が出る訳ではない。

● 症状の程度は個体によりさまざまで、よく注意して見ないと分からない様なわずかな首の震え程度から、空を見上げたり、そのまま反転して首を変な方向に曲げてしまうようなかなり重篤なものまである。

● たとえ重篤な症状の個体であっても補食行動等には問題がなく、成長スピードも正常な個体と特に変わる事はない。また我々は経験していないがこの様な個体でもまったく問題なく繁殖行動がおこなえるようである。

● 症状の発現は多くは突然始まるが、時間の経過と共に症状が軽くなる事も多く、数ヶ月で消失してしまったと言う例もある。(国内例でも有り、またUSAフォーラムでも心配しなくても少しずつよくなるよといった意見が多く聞かれた)

● スパイダーから派生したモルフ(バンブルビーなど)では、もちろんまだ絶対数が少ない事もあるが発症例が少ない様に見受けられる。(情報量が少ない為、調査段階)

● もちろん伝染病でも、致死的な疾患でもない。

昔に比べれば格段に入手しやすい価格になったとはいえ、スパイダーはまだまだ高価なモルフです。もしも万が一購入した個体が神経症状などを現せば、飼育者としては胃が痛くなるような気持になる事でしょう。
しかし、スパイダーは今のボールパイソンブームを作った立役者であり、そこから派生した数々のデザイナーモルフはどれも素晴らしいものであります。USAのTop of Top ブリーダー、N.E.R.D. の Kevin McCurley氏が、愛してやまないモルフでもあり、昨年のデイトナエキスポでも、すべてのトップブリーダー達がエポックメーキングモルフとしてスパイダー派生のバンブルビーをあげた事でもわかるように、大切な大切なモルフであると思うのです。

USAフォーラムでも、何度も繰り返しいわれていることは、「とにかく信頼できるブリーダーから購入しなさい、トップブリーダーは絶対にあなたを裏切らないし、何かあったときは必ずよい助言をしてくれるものだ。」という意見でありました。我々も、それに習い、現状、国内外を問わず情報の収集を行い・追跡調査などを実施しております。今はまだ、得た情報を正確に受け止め、把握・蓄積している状況ではありますが、今後もその認識の元、Bp・Supplyはこのモルフの可能性に目を向け、大切に取り組んで行きたいと考えております。